奈良盆地のサシバの主な生息環境は、里山環境と言われる古くから人が自然と共生してきた場所です。
里山環境は概ね小規模の山地とそれに隣接する平地で構成され、標高が概ね100~300m程度の山地が営巣地となり、営巣林に隣接する農耕地が餌場となっています。
営巣地はほとんどが林地であり、構成される樹種はスギやヒノキなどの植林が多く、次いで、コナラ、アベマキなどの落葉樹林が多いです。当会では繁殖への影響を避けるため巣の確認は行っていませんが、餌運びなどの繁殖行動から営巣木はこれらの構成種が多いと推定しています。
農耕地はほとんどが水田であり、一部に畑地、果樹園
水田と山地の林縁部などにおいて両性爬虫類、昆虫類などを捕食していると考えています
奈良県でのサシバを含むタカの渡りのルートについて
日本列島やその周辺で繁殖を終えたタカたちは、9月に入ると越冬地である南西諸島や東南アジアに移動し始めます。これが秋のタカの渡りです。
日本におけるタカの渡りのルートは、サシバに注目すると、伊良湖岬(愛知県)から伊勢(三重県)に渡り、奈良県に入ってからは東吉野村の高見山周辺、下市町の栃原、五條市の金剛山麓を通り、和泉山脈(和歌山・大阪府県境)を経由して、徳島県南部に至る日本列島南岸(紀伊半島横断)ルートが古くから知られています。
また、2001年11月17日に設立された『タカの渡り全国ネットワーク』の精力的な活動によって、白樺峠(長野・岐阜県境)から岐阜市、猪子山(滋賀県)、岩間山(京都府)、高槻(大阪府)、六甲山・淡路島(兵庫県)を経由して、鳴門(徳島県)付近から四国に入る本州中央(内陸)ルートが明らかにされました。
今のところ、日本にはこれら二つの大きなタカの渡りルートがあることがわかっています。
奈良県では、日本野鳥の会奈良支部が伊良湖岬からのルートに着目して、1970年代後半から長年の調査活動を行った結果、タカ渡り本流と言える日本列島南岸(紀伊半島横断)ルートは概ね解明されました。
しかし、実際の渡りでは、大きな本流だけでなく、枝分かれする多くの支流が分岐と合流を繰り返しながら移動していると考えられています。また、高見山や栃原タカ渡りのカウント数は毎年一定ではなく、その年の風向などの気象条件に左右されることもわかってきました。
私たち奈良猛禽類研究会は、2021年から本流以外の支流にも着目して、タカ渡りのカウント数の変動の原因を解明できればと考え、まずは奈良盆地中部での観察に取り組み始めました。過去に観察した断片的な渡り記録や情報をもとに、矢田丘陵や信貴山、二上山などで予備的な観察を開始しています。